大胆な図柄と華麗な色づかいで世界的に評価を得ている”古九谷”は17世紀中頃から製作が始まり,後世に残る名品を生みながらも多くの謎を残してわずか数十年で途絶えました。それから約120年後の1824年(文政7),72歳にして私財を投じ,この古九谷再興に浪漫を馳せた男がいました。大聖寺城下(現在の石川県加賀市)の豪商,四代豊田伝右衛門です。屋号を吉田屋と号したことから,この再興窯は吉田屋と呼ばれています。古九谷が大皿中心で大名好みとその用途に基づいているのに対し,吉田屋は,江戸後期の豊かな町民文化と食生活を反映して平鉢や皿,徳利などの食器類のほか茶道具や文房具まで,その器種は多岐にわたります。器型の多彩さと,そこに描かれた絵画性の高い意匠が吉田屋の大きな特徴です。
吉田屋窯は開窯後わずか7年で廃窯となりましたが,吉田屋の再興した九谷の色絵の優れた技は,加賀の地で受け継がれ,北大路魯山人や富本憲吉にも影響を与えるなど,数多くの創造性あふれる作家を輩出しています。本展では,吉田屋と古九谷の名品,九谷の色絵に影響を受けた近代の作家による作品合わせて約200点を紹介します。