二つの世界大戦という歴史上の大きなうねりの中を生き抜いたケーテ・コルヴィッツは、ドイツを代表する版画家・彫刻家です。政治的変動や恐慌、戦争にみまわれた当時のドイツで、貧困にあえぐ労働者階級の人々の苦しみを描いたコルヴィッツ。その彼女自身も、第一次大戦では息子を、第二次大戦では孫を失います。生命ある者が不条理に死に追い込まれる状況に、母として、一人の人間として苦悩したコルヴィッツの生涯にそって初期から晩年までを4つの構成で示します。代表作『職工の蜂起』、『農民戦争』、『戦争』、『死』といったシリーズの他にも、「カール・リープクネヒト追悼」、「女と死んだ子ども」などの版画や素描、「ピエタ」などの彫刻など、ifaドイツ対外文化交流研究所およびケーテ・コルヴィッツ美術館 ベルリンなどが所蔵する約160点が一同に会し、コルヴィッツ芸術の全貌に迫ります。コルヴィッツは、ナチスによる制約という不遇の状況下、1945年、第二次世界大戦終了の年にその生涯を終えました。今年は、戦後60年であり、コルヴィッツ没後60年でもあります。いまだ世界のどこかで戦争の惨禍が報じられる今日、コルヴィッツの作品は、我々に多くの問題を投げかけてくれることでしょう。