ベルギー近代美術における三大画家の一人、ジェームズ・アンソール(James Ensor,1860-1949)はルネ・マグリット、ポール・デルヴォーとならび、国際的に高く評価されています。仮面や骸骨、空想の生き物や死の舞踏といったモチーフを通して、アンソールは大衆の心理や自己の内面をシニカルに描き出しました。アンソールと言えば、「仮面の画家」としてよく知られていますが、この画家を語る上で忘れてはならないもう一つの側面、「リアリスト」としてのアンソールも今回、ご紹介致します。当時の若いベルギーの画家たちや評論家は、早い時期からアンソールをリアリズムの画家として一目置いていました。
今までのアンソール展では、モダニズムのパイオニア(芸術における個人的な慣習や信念を打ち破り到達した)となる前のアンソールは、素晴らしい作品を数多く残しておりながら、あまり重きを置かず、軽視されてきたところもあります。
本展では、同時代の画家や評論家から充分に認識されていたリアリストとしてのアンソールの初期作品から、日本や中国といった極東の美術の強い影響の元に生み出されたグロテスクな作品、そして西洋絵画の伝統的主題を独自に再解釈して行き着いた風刺的な作品までをご紹介致します。なかでもひとつのハイライトとなるのは、アンソールが葛飾北斎による絵手本「北斎漫画」を模写した一連のデッサンで、これらが日本でまとまったかたちで公開されるのは今回が初めてです。
アンソールの初期作品から晩年までの油彩、素描、エッチングを紹介する本格的なジェームズ・アンソール展の開催は、1983年以来約20年ぶりとなります。