天平の息吹を今に伝える、秋の正倉院展。第57回目となる今年は、北倉15件、中倉29件、南倉22件、聖語蔵3件の総計69件の宝物が展観されます。今年は、百索縷軸、平螺鈿背八角鏡、槃龍背八角鏡など聖武天皇、光明皇后御遺愛の品々をはじめ、東大寺ゆかりの儀式具、荘厳具、仏具、献物几・献物箱、天平時代の装身具、文書、珍材等が出陳されます。正倉院宝物の全体が概観できるような内容となっていますが、本年は特に遊戯具、楽舞関係の遺品、珍貴な材料を用いた遺品の多いのが特徴です。また動物を表した宝物や動物由来の材料を加工した宝物がそろい、天平時代の動物と人との関わりがしのばれる点にも特色があります。
遊戯具では、正倉院宝物中屈指の名宝である木画紫檀棊局、及びその容器である金銀亀甲棊局龕が12年ぶりに出陳されます。また碁石(紅牙撥鏤棊子、紺牙撥鏤棊子)、碁石入れ(銀平脱合子)など華やかな品々も出陳され、聖武天皇も楽しんだかと思われる天平の碁が展示室に甦ります。
珍材を用いるものとしては、ガラスを用いた瑠璃壺をはじめ、南方産のサイの角を用いた犀角如意、犀角坏、クスノキの玉杢を用いたべん楠箱等、注目すべき品々が出陳されます。東西の交易を通じて伝えられたさまざまな珍材を用いて自らの生活を飾った、天平人の華麗な生活が鮮やかに想像されます。
また近年の宝物整理・調査を踏まえ、多数の初出陳品が展観に供されるのも、今年の話題の一つです。
いにしえ華やかな王朝文化が花開いたこの奈良の地で、馥郁たる天平の余香をしっくりとお楽しみください。