四季折々の風趣に恵まれ、自然にゆだねた生活を営んできた日本人にとって、草木花に寄せる想いはことのほか深いものがあり、特に桜は古来より親しまれてまいりました。絢爛と咲き、いさぎよく散る…桜ほど日本人の美意識に適う花はないのではないでしょうか。それゆえに絵画、文学をはじめとする芸術全般において多くの芸術家たちに好題材として選ばれてまいりました。
本展覧会では、所蔵品の中から桜をテーマにした作品を中心に選び、お隣の千鳥ヶ淵の桜と共に華やかさを競い合おうという趣向でございます。今年はお馴染みの作品に加えて、当館の新収蔵品である石田武の新作「千鳥ヶ淵」と、近代日本画の巨匠・横山大観の「夜桜」(6曲1双屏風)を大倉集古館より特別に拝借し、展示いたします。この「夜桜」は昭和5年のローマ日本美術展で、当時国花として定着した桜を主題に、日本画の神髄を対外的に伝える使命感を持って制作した大作であり、大観の傑作の一つと言われているものです。
本展は大倉集古館のご協力を得て、より一層華やかさを添え、名品揃いの豪華な展示となりました。皆様お誘い合せの上お越し頂き、穏やかな春の一日、都会の喧騒を離れてお過ごしいただければ幸いに存じます。