向井潤吉は、戦後まもなく、日本の風土に根ざした茅葺き屋根の民家をモティーフとして制作を始め、一貫した伝統的な日本の風景を画面にとどめてきました。次第に姿を消していく日本中の民家を求め、向井は現場に足を運び、あるがままの風景と向かいあい、誇張のない的確な描写によって、日本の原風景を生き生きととらえました。
1901年に京都に生まれた向井潤吉は、関西美術院で絵画の基礎を学んだあと、26歳の時、フランスに留学します。ルーブル美術館に通い古典名画の模写に没頭し、巨匠たちの技をその腕に刻みこみ1930年に帰国します。しかし日本は、徐々にきな臭い時代へと向かっていました。戦火で失われていった昔からの日本の民家を憂い、娘の学童疎開先だった新潟の農村をその第一歩とし、北海道から鹿児島まで日本全国をくまなく歩き、消え行く風景をカンヴァスにとどめていきました。特に、岩手の農村は、向井が好んだ土地で、遠野や滝沢を度々取材に訪れています。本展は、向井潤吉が描いた日本の原風景といえる、懐かしい農村を題材にした作品を中心に、彼が求めた表現世界を紹介します。