風景画家として知られる小野竹喬は、挿絵や表紙絵といった仕事にも携わっていた。
新聞社よりの依頼をうけ、大正5年には<飛越山中>と題する紀行文を、また昭和3年には同門の画家土田麦僊(つちだばくせん)と共に<瀬戸内海絵行脚>を連載している。いずれも実際に各地をめぐって挿絵を描き、自身の手による紀行文をよせたものである。同一の人物による文章と絵とは互いに補いあい、緑濃い五箇山(ごかやま)周辺、或いは陽光あふれる瀬戸内の、豊かで生き生きとした印象を伝えてくれる。
戦後の仕事としては、大佛次郎(おさらぎじろう)による新聞連載小説<天皇の世紀>のための挿絵群がある。「絵はさしえでなくてかまわない。・・・明治をよく知っておられる方に、自由に描いていただけたら」という大佛の注文によって、明治の懐かしい風物や花鳥を扱った愛すべき作品が数多く生み出された。竹喬はこの新聞の片隅の小さな挿絵のためにもスケッチを行ったり草稿を作ったりしている。
これらの竹喬による挿絵は、文章とともにあっては互いに響きあって内容を豊かにし、文章と離れてもそれのみで独自の魅力を放っている。このたびの展示ではこれらの挿絵や、谷崎潤一郎、川端康成らの本の表紙を飾ったデザイン的な表紙絵原画など、初公開作品を含む150点を展示して、本画とは異なる仕事に示された竹喬の感性に触れてみたい。