本展覧会では、大正から昭和前期にかけての美術に焦点を当て、明治の作品を中心に取り上げた従来のコレクション展では触れる機会の少ない、当館所蔵の大正・昭和前期の隠れた名品を、日本画、工芸、洋画、版画からご紹介いたします。「個」と「自由」の重要性の主張、都市文化・大衆文化の開花、社会主義思想や労働運動の隆盛などといった、本格的な戦争の時代に至るまでの社会・文化の潮流を踏まえながら、繁栄と不安の混在した大正・昭和前期における美術の動向を概観します。
展覧会は、日本画、工芸、洋画、版画の各ジャンルによる4章から構成されます。ここでは、美術における時代の先駆者たちの、若き日の情熱溢れる姿を表す東京美術学校卒業生の自画像や、当時、注目を集めた新しい表現の作品とは異なり、やや保守的といえる官展出品作品も取り上げます。美術の変遷だけでなく、当館コレクションの特徴も明らかにします。
明暗両方の側面を持つ時代に製作された作品には、芸術家が自己や社会と奮闘した軌跡が鮮明に表されています。また、そこには、当時は最先端であった都市生活や風俗が描かれており、その時代の人々の日常にも触れることができます。このような時代に描かれた当館所蔵の名品を通して、大正から昭和前期における社会・文化全体をご覧になって頂けるでしょう。
さらに、今回、特に注目すべき作品は、版画のコレクションです。これまで一堂に並べられることのなかった当館の創作版画のコレクションを大きく取り上げ、「自我・自刻・自摺」を掲げる創作版画の確立と発展の過程を追います。なお、本展覧会では、平成16年度に新たに収蔵品となった長谷川潔作品とその原板を始め、近年の新収蔵品もご紹介いたします。