日本画家平福百穗は上京したばかりの頃、生活費を得るために新聞社で挿絵を描いた時期があります。この百穗が入社して間もなく、やはり挿絵を描くために同じ新聞社に雇われた日本画家がいました。それはまだ洋画家であった川端龍子です。龍子は以前から百穗とは顔見知りではあったようですが、机を並べ毛筆を振るう百穗の仕事ぶりを見たことで、百穗の日本画の技法に驚き、感化と啓発を受けました。龍子が日本画へ転向した直接の原因は、渡米の折り日本美術を再認識したためですが、随筆の中で龍子は、「日本画に転ずるようになった遠因は、すでにこの百穗氏から受けた感化のうちに発していたのかも知れない」と記しています。
人の出会いとは不思議なものです。それは川端龍子の場合のように、直接的にしろ間接的にしろ、人生の岐路に立つほどの重要な影響を与えます。それは誰にも起こりうることですが、画家たちにとって、そのたゆまぬ創造の道には多くの人たちとの出会いがあり、様々な才能の邂逅があるのです。
今回のコレクション展はこのような画家たちの出会いやエピソードを添えて収蔵品をご紹介いたします。「袖すり合うも他生の縁」といいますので、作品が隣り合う作家たちのエピソードを結んでみました。つまり、順番に見ていくと秋田美術界の「友達の輪」を一巡することになります。収蔵品の中にはエピソードと直接関係ある、ドキュメンタリーな作品もありましたのでお楽しみに。