館蔵品の中から、山や水辺、旧跡、街角など風景を題材とした絵画作品約50点を精選しご紹介いたします。
古来日本では、中国山水図の伝統に基づき、山や水辺の景色が数多く描かれてきました。10世紀以降は、徐々に大陸の影響から離れ、日本そのものの景色を描こうとする気運が高まり、名所絵というジャンルが生み出されます。名所絵の画題としては、和歌に詠まれた興趣深い情景のほか、特定の景勝地や都市景観が含まれました。この伝統を今に引き継ぐ形で、近代では日本画・洋画問わず、山や川、旧跡、街角などの身近な風景が数多く描かれることとなります。
本展では、富士山を好んで描いた横山大観の名品《霊峰不二》や、明治・大正期に風景画の近代化を図った川合玉堂、その系譜に属する児玉希望、奥田元宋らの作品を展覧。油彩画では、一幅の風景画を思わす高橋由一の戦争実況図《官軍が火を人吉に放つ図》や、日本ならではの山村風景を描いた浅井忠《八瀬の秋》、異国の街角を情趣豊かに描き出した佐伯祐三《パリの裏街》、《ロカション・ドゥ・シボー》などを紹介します。
いずれも、画家たちの透徹した眼差しと真摯な姿勢によって、多彩な風景の魅力が絵画化された佳品となっています。山や川など侵しがたい天然の美だけでなく、人間の生の痕跡である旧跡や都市の景観美をご堪能ください。
この他、岸田劉生《毛糸肩掛せる麗子肖像》とファン・ゴッホ《農婦》を特別公開いたします。また、好評につき、ルノワール《花かごを持つ女》、《婦人習作》の特別公開を会期延長いたします。