今日、風景を描いた絵画は広く親しまれています。鑑賞のみならず美術教育の場などを通じて実際に描いた経験のある方も多いでしょう。しかし、我が国において名所や旧跡、山水画の伝統、あるいは文学的な主題から離れた「ただの風景」が絵画の主題となったのは、それほど古い時代ではありません。
「風景画」という言葉は、1897年(明治30)に創刊された『美術批評』誌に初めて用いられ、その後1899年開催の「白馬会展」より、作品タイトルに「風景」の語彙が頻繁に見られるようになりました。この時期を境に、美術のジャンルに風景を主題にした絵画が取り入れられたといえるでしょう。
あらためて考えれば、「風景」とは、すでにそこに存在するものであり、その空間に眼差しを向けた者によってはじめて価値が認められることになったのです。
今回資生堂アートハウスでは、風景表現として、さまざまに発展、確立していった近現代の「風景画」に焦点を絞り、収蔵品の中から20余点の油彩による風景画を展覧します。
画家の眼差しによって切り取られ、キャンバスの上に再現された、風景画の世界をご鑑賞ください。