江戸時代、寺子屋の広汎な普及がみられ、庶民の読み・書き能力は、世界に類を見ないほど高度に発展していました。寺子屋では、現在行なわれているような一斉教育はみられず、子供たち個々の能力や必要性に応じた個別の学習カリキュラムが組み込まれており、こうした個別指導によって、基礎的な読み書き能力が向上し、文字が日常の生活に不可欠なものとして浸透していきました。
文字の普及は、社会に大きな変化をもたらしました。帳簿の作成から宣伝文の作成など社会の運営や商売の上でも文字は不可欠の存在となり、カルタや双六などといった子供たちの遊びの世界にも文字は不可欠の存在となっていきます。また様々なジャンルの小説を書く人とこれを読む人々、俳句や川柳を詠み楽しむ人々、和算の難問に魅せられた人々等々、文字を使った文化が発展しました。このように文字の読み書き能力の向上は、学びを楽しむ独特の文化を創り上げていきましたが、それらの多くは、近代化の過程で遅れたもの、あるいは月並みなものとして否定されたり、忘れ去られたりしました。そして漸く迎えつつある生涯学習とは、江戸時代がそうであったように、生活のなかに学び楽しむ文化を取り戻すことに他なりません。
明治維新以降急速に発達した学歴主義は、江戸時代の武士身分のなかにその原型を見いだすことができます。
この展覧会では、江戸の子供たちの学習風景はもとより、文字を楽しむ人々や勉強に励む武士など、江戸時代の教育の実態を、絵画や古文書など数多くの資料によってさまざまな角度からわかりやすく紹介します。