ドイツの現代写真は、1990年代以降、「ベッヒャー派」と呼ばれるデュッセルドルフ芸術アカデミー出身の作家たちを中心に、国際的に高い評価を得てきました。彼らは同アカデミーの写真科教授ベルント・ベッヒャーが、妻ヒラとともに50年代末からとりくんできた「タイポロジー(類型学)」と呼ばれる手法の作品に代表されるように、写真というメディアの特質を活かし、外界を精密に分析する作品によって、現代美術の世界で注目されてきたのです。
同時にドイツにとって90年代は、89年秋のベルリンの壁の崩壊と、東西の再統一に始まる歴史的な変革の時代でもありました。こうした時代背景のもと、グローバル化する社会の中で国を越えた若者世代の共感を集めたヴォルフガング・ティルマンスや、長く西ベルリンに住み、その特殊な状況に置かれた都市を主題としたミヒャエル・シュミットといった写真家たちの仕事の展開も、ベッヒャー派の写真家たちとならんで、ドイツ現代写真を考える上で、欠かすことのできない重要な側面といえます。加えて近年では、旧東ドイツ出身の新世代の活躍も注目されはじめています。
今回の展覧会は、そうした多彩な展開をみせるドイツ写真の現在を、「現実」にたいしてさまざまなアプローチを試みている10人の作家たちの仕事によって紹介するものです。それはまた彼らと同時代を生きる私たちにとっても、かわりゆく「現実」と向かいあうために何らかの視点を見出す機会を与えてくれることとなるでしょう。
なお本展は、日独のキュレーターによる共同作業を経て、「日本におけるドイツ2005/2006」の一環として開催され、日本国内3ヶ所に巡回します(当館が最終会場となります)。