独特な色彩表現で特異な存在として知られた、小山市羽川出身の木版画家古川龍生(1893-1968)の画業を回顧します。色彩表現の追及の結果、版画でありながらほとんどの作品が1枚しか刷られませんでした。そのため全生涯にわたる作品を通観する機会は、ほとんどありませんでした。今回の展覧会では、記憶の情景を記念写真的に表現した初期の作品から、叢のなかにひっそりと生息する昆虫を主人公にした「昆虫戯画巻」に代表される昆虫シリーズ、花や名も知らぬ雑草をテーマにした作品群、故郷の田園風景、スポーツをする人々、東京銀座の記憶の風景に取材した街角のシリーズ、そして晩年の海水浴をする人々へと変化した主題を追って、その画業の全貌に迫ります。
創作版画運動の多くの作家の中で、版画の複数性よりも、版画の持つ色彩表現の可能性を追求し続けた古川の存在は特筆されるべきでしょう。その生涯にわたる作品のほとんどを所蔵する栃木県立美術館のコレクションのなかから選りすぐった作品に、代表的名品を加えた約170点により構成される本展覧会は、木版画の色彩表現のすばらしさ、古川龍生の木版画芸術にふれる絶好の機会になるでしょう。