石井礼子(いしい・れいこ)は1974年生まれ(本籍・神奈川県藤沢)の新進作家です。幼少期より絵画に強い興味を示し、田沢茂(現・新制作会員)が指導する児童画教室 に通いました。高校を卒業するまでの間に数多くの絵画コンクールで海外招待を含む各賞を受け、その早い才能の開花に将来を期待されます。女子美術大学在学中に新制作展に入選し注目を集め、2000年には新制作展・新作家賞受賞し、以後、3年連続して同じ賞を受賞。もっとも有望な新人として知られていきます(2004年、若干30歳で同会会員)。石井の絵の特徴は、自分の周囲の世界に徹底してこだわり、それを独自の視点と技法で描ききっていることです。日本画の素材である麻紙に割り箸と墨を使う方法は、子どものときから通う児童画教室で知ったもの。身の回りの日常生活のひとこまをとらえる独特なアングルと、細部への偏愛とも思えるこだわりは、幼児期や少女期の体験・記憶が今現在の自分の私的風景を形作っているとの思いから生まれたもの。モノクロームの大画面による驚くばかりの念入りな描写と、変幻自在な視点は彼女の作品を際立たせていますが、それは石井にとって子どものときより慣れ親しんだ手法に過ぎません。しかし、変哲もない日常の平凡な眺めが、一転してスリリングでポップな情景に変わり、観る者をまるで迷路の只中に立たせる石井の作品は、われわれの日常感覚にも新鮮な刺激を与えます。本展は不思議で楽しく、そしてちょっぴり怖い石井ワールドを紹介するものです