伊丹市立美術館では、今回、所蔵品を中心とした「旅」をテーマにした企画展を開催いたします。
「旅」という言葉に、人はどのような思いを抱くのでしょうか? 見たい・知りたいという知的好奇心や冒険心、湯治・買物・飲食・遊興などの各種願望、「癒し」...このように、旅から想起されるイメージは人それぞれさまざまですし、事実今も昔も変わりなく人はさまざまな理由から旅立ちます。古今の旅の在りように通底しているものはといえば「日常からの脱出」というファクターぐらいではないでしょうか。
旅空の下、各々の日常と異なる環境に身を置いて、人は風光などの外見の相違はもちろん、その内面に潜む違うものの見方や考え方も体験します。画家たちが、そうした体験をもとに彼の地を目前にして描いた作品、また実際には訪れずとも彼の地に憧れを馳せて描いた優れた作品の中には、観る者をその奥底から旅へと誘う強い引力を放つものがあります。
本展「グランド・ツアー 美的観光のすすめ」では、さまざまなかたちで旅をイメージさせる作品たちを、「旅への誘い」、「名所の風光」、「旅のかたち」、「空想の旅」などのテーマのもとに構成し、展観いたします。
人を内省的にさせる冬のひととき、どうか当館の全展示空間をゆったりと周遊(グランド・ツアー)していただきながら、憧れを掻き立てるイマジネイティヴな作品たちに出会って、感じて、そしてまた新たな旅へと誘われていただきたいと思います。