世界には物語があふれています。神話や民話、ファンタジー、推理小説、恋愛小説など、語りや書物、あるいは映像を通して慣れ親しんできた「物語」は、洋の東西を問わず、人間にとってもっとも原初的なエンターテイメントといえるでしょう。そしてまた、日々の暮らしの中で、私たち一人ひとりの物語が作られ続けています。本展覧会では、今日のアートにみられる物語性に着目し、作品の中で物語がどのように形作られているのか、あるいはどのような物語が潜在しているかを探ります。そこでは人種、性差、家族、個人のアイデンティティーなど、現代社会の抱える様々な問題と、アーティスト個人の体験が複雑にからみあいながら表現されています。作品を見る私たちもまた、自分自身の体験や意識に向きあうことになります。日本、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、オセアニアなど様々な地域出身の14名の参加アーティストによるバラエティーあふれる表現を通して、アートの多様性を考察するとともに、地域を超えた同時代的なメッセージを読みとっていきます。様々な物語を紡ぐアートを、小説のように「読み」、映画や演劇のように「観る」楽しさを、展覧会の中で体験していただきたいと思います。