芝川照吉(1871-1923)は、明治から大正にかけて毛織物貿易で巨富をきづき“羅紗王”とよばれた芝川商店の実業家です。
日本洋画家の援助をつづけ膨大なコレクションをつくりあげた、近代美術における庇護者のさきがけです。
青木繁と坂本繁二郎、岸田劉生をはじめとする草土社グループ、浅井忠や石川柏亭とその仲間たち、藤井達吉や富本憲吉ら近代化を目指した工芸家たち、柴川の援助をうけたのはじつに多彩な顔ぶれです。
漱石との交流も語られるなど文化的土壌も恵めぐまれていました。
芝川は美術家との交流を何より楽しみにしていました。
『劉生日記』には、芝川と頻繁に会食したこと、画家たちが柴川邸につどっていたことなどが書かれています。
大正期の革新的な美術をつくりあげた人々にとって、彼の援助はなくてはならない大きな支えだったのです。
質量において圧倒的であったコレクションですが、芝川の没後は関東大震災にあいほとんどが散逸しています。
本展は、すぐれた蒐集眼によってあつめられたこの「幻想のコレクション」を、できうるがぎり発掘し、往時のすがたを再現しようというのがねらいです。
芝川の存在は、蒐集という行為にとどまらず、近代日本の重要な美術動向を支えていたわけで、パトロン、コレクター、画商などの美術をめぐる人々によっても美術史がつくられ語られることを示しているのではないでしょうか。