「うた」にはさまざまな「ちから」があります。『古今和歌集』が編纂された平安時代中期以降、和歌は宮廷サロンで盛んに詠(よ)まれました。しかし和歌は文化的素養にとどまらず、漢詩や管弦と並ぶ一つの職種として宮廷の儀礼〔まつりごと〕に奉仕する政治的な役割を与えられ、それを担う「歌道の家」が和歌の作法や技術を代々伝えていきました。和歌は漢詩・管弦とともに、宮廷儀礼の中心にある天皇が身につけるべき「作法」として後世まで重んじられました。
中世から近世にかけて、和歌はより広く幕府や中央・地方の武士、僧侶、有力農民層にまで浸透します。そこに和歌を中心として人々のネットワークが形成され、それを通じて宮廷や幕府と地方との間に新しい政治的・経済的な交流のシステムが生まれました。
和歌はまた美術工芸品や装束にも大きな影響を与え、和歌に題材を取った優美な作品を多く生み出しています。このような視点から和歌の力を考えることもできると思います。
今回の展示では、このような和歌のさまざまな力を、本館が所蔵する「高松宮家伝来禁裏本」などの資料を通してご覧いただきたいと考えております。