金沢文庫には鎌倉時代後期の茶に関する書状が多数残っています。重要文化財に指定されたこれらの書状は、茶道以前の茶を知る上で大変重要な資料群です。
茶に関する記述は、すでに鎌倉時代初め栄西の『喫茶養生記』に見ることができます。また、弘長二年(一二六二)北条実時の招きにより鎌倉へ下向した僧叡尊が途中の宿場で人々に茶を施したことが『関東往還記』からわかります。このように、鎌倉時代も中頃になると貴族や武家、寺院などの間に喫茶が普及するようになりました。
金沢文庫に残る、十五代執権金沢貞顕の手紙には京都の茶を手に入れる苦労話、称名寺長老釼阿宛にきた手紙には茶園の造成に関した記述など、茶に関わるさまざまなことが書かれています。
この特別展では、金沢貞顕はじめ鎌倉幕府の要人たちが中国からの舶来品である唐物で茶を楽しむ様子、本茶非茶と呼ばれた茶の味くらべ、薬効ある茶の寺院での利用など、鎌倉時代の茶について金沢貞顕の書状を中心に、前半は金沢文庫に伝わる資料で、後半は鎌倉の寺社に残る往時の名品の数々で紹介します。