広大なユーラシアの大地をつなぐシルクロードは、三千年の昔からアジアとヨーロッパを結ぶ東西交易の大動脈として栄えてきた。古代にバクトリアあるいはトハリスタンと呼ばれた中央アジアの地は、シルクロードの要衝にあり、東の中国文明と西のギリシャ・ローマの地中海文明、そして南のインド文明が出会う民族と文明の十字路であった。それ故に、多くの騎馬民族がその富と覇権を求めて破壊と再生を繰り広げてきた。中央アジアのシルクロード史は、まさに遊牧騎馬民族の興亡の歴史であった。
紀元前4世紀後半、カイバル峠を越えたアレキサンダー大王の東征によってこの地にヘレニズム文化が広まり、そして中央アジア最初の遊牧騎馬民族国家クシャン朝の時代には、インドから伝わった仏教と融合して世界美術史上に有名なガンダーラ様式の仏教美術が絢爛と華開いた。
本展では、ウズベキスタン共和国ダルヴェルジン・テペから出土した古代ローマやクシャン朝の金・銀貨、ギリシャ風の女神像や仏像、タジキスタン共和国ペンジケント遺跡の貴族居館跡から出土した彩色壁画などの資料から、民族と文明の十字路に華開いたヘレニズム文化とガンダーラ美術、謎の民族ソグド人の文化、そして「東方の真珠」サマルカンドのイスラム美術を概観し、中央アジアのシルクロードに繰り広げられた悠久の歴史と日本仏教美術の歴史を解き明かすものです。