平成16(2004)年2月、98歳で亡くなった画家・杉本健吉(1905-2004)は、名古屋に生まれましたが、戦前から奈良やその周辺の風景・風物を描いて全国に知名度を与えてきました。
戦後は東大寺観音院にアトリエを構えて、ここを拠点に数多くの作品を生み出しました。また、写真家の入江泰吉をはじめとする文化人との交流も含めて奈良にゆかりの深い画家です。
当館では、平成15(2003)年に代表作による特別展「大和を描く 杉本健吉展」を開催し、その創作活動の流れを紹介しました。その縁もあって昨年、ご遺族のご好意により奈良関係の作品を中心に400点余のご寄贈を受けました。
今回は、その報告と紹介を兼ねて特別陳列で新収蔵品の一部を展示します。
その内容は奈良・大和の風景や風物はもちろんのこと、その他にも人物画や静物画、海外の風景・風物などバラエティに富んだものになっています。表現方法も、従来の日本画と洋画、あるいは本画とデッサン(下書)などといった区分けを超えた活動を展開した画家らしく多様なものが見られます。またその中には画家の創作の原点とも言うべき画帖『骨皮帖(こっぴちょう)』、昭和50年に刊行されて話題になった画集『墨彩大和』の原画、《修二会(お水取り)図巻》の構想を練った画稿、大阪・四天王寺聖霊院障壁画(聖徳太子絵伝)画稿など非常に珍しく、貴重な作品も含まれています。
今日でも変わらぬたたずまいを見せる風景、失われてしまった風景、画家の目によって新たに教えられるような「美」など、本展覧会により様々な発見や感動を味わっていただこうというものです。