幕末の浮世絵師である歌川国芳(1797-1861)は、江戸日本橋に生まれた。当時の一大流派である歌川派に属しながらも独自の画風を追求し、江戸の市民に絶大な人気を得た。役者絵や美人画など、浮世絵で描かれるあらゆる分野を広く手がけた。
『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』のシリーズを発表し武者絵のジャンルを確立すると、「武者絵の国芳」の異名を取り、一流絵師へと駆け上った。水滸伝に登場する豪傑たちを一枚絵の中に画面いっぱいに扱った、躍動感あふれるこの一連のシリーズは人々の心を捉え、大好評を博した。さらに、三枚続きの作品を一つの画面としてとらえた「ワイドスクリーン」の構図を考案し、よりダイナミックな表現を可能にした。幕府の厳しい取り締まりに対し、持ち前の反骨精神で「源頼光公館土蜘蛛作妖怪図」や「荷宝蔵壁のむだ書」などを制作し、鋭く社会を風刺している。
また戯画にも長じ、猫をはじめとする、動物を擬人化したものや、「みかけはこはゐがとんだいゝ人だ」に代表される寄せ絵のシリーズなど、ウィットに富んだ作品を次々に発表した。その大胆な表現、警抜な着想、独特の遊び心は、近年再び評価が高まっており、今最も注目されている浮世絵師の一人である。
本展覧会では、国芳の画業の二大支柱ともいえる“武者絵“と”戯画“を中心に、国芳の魅力の全貌に迫る。