豪傑が天下国家を声高に語るのでもなく、完全無欠のヒーローが華やかに活躍するわけでもない。誰もが皆それぞれの生き方があり、救いがある―藤沢周平は時代小説でありながら、現代に生きる私たちの日常を歴史に素材を借り、名もなき人々をあたたかな眼差しで包む作風で愛されています。
「用心棒日月抄」「獄医立花登手控えシリーズ」「よろずや平四郎活人剣」「本所しぐれ町物語」「蝉しぐれ」「たそがれ清兵衛」「三屋清左衛門残日録」など数々の名作を残し、平成9年に惜しまれながら69歳でこの世を去った後、今なお読者を広げています。
井上ひさし製作「海坂藩・城下図」(遅筆堂文庫所蔵) 藤沢は故郷鶴岡の面影を託した架空の小藩海坂藩の下級武士や江戸庶民の哀歌を通じて、人間が人間である限り不変なものを活写し続けました。
愛惜誘う風景描写とあいまって、人生の光と影、一途な純愛と人情の物語は多くの読者の心をとらえ、組織の中で自分らしく生きようとする登場人物の姿は、特にビジネスマンの大きな共感を得て「癒しの文学」とも呼ばれています。
「蝉しぐれ」冒頭部の草稿 本展では、藤沢周平の没後、家族の手元で保存されていた原稿、創作資料、蔵書などを一挙初公開、実際に愛用した品々で執筆の場となった書斎も再現します。
藤沢旧蔵資料を中心に約500点の資料で、作品の源泉と作家の素顔を紹介する待望の特別展です。 めまぐるしい変化の中で価値観が錯綜する現代社会。普通に生きる幸せを見失いがちな今こそ、原点を見つめ直し思わずほっとする…藤沢周平の世界をどうぞご堪能ください。