新日本画の世界を拓いた山口蓬春(1893~1971)は、東京美術学校日本画科を卒業後、伝
統的な技法を基盤としつつ広く内外の芸術を吸収し、戦後は時代感覚を意識した「蓬春モダニズム」と形容される独自の世界を創り出しました。その制作の舞台となったのは、明るい陽光があふれる葉山御用邸近くの自宅兼アトリエでした。
北に山を背負い、庭は700坪、南下りの理想的なたたずまい、瀟洒な数奇屋造りの家と丹精をこめた日本庭園―夫妻の暮らしたその空間に彩りを添えたのは、夫妻が収集した茶道具でした。
春子夫人は宗へん(※「偏」の字をぎょうにんべんにした字)流の茶人で、葉山の自宅では茶事を催していたようです。蒟醤(きんま)の菓子器や桃林宗陽の茶杓など、華奢で繊細な茶道具を好んでいたように思われます。また蓬春も夫人同伴で茶会に赴いたり、同世代の陶芸家との交流の中で茶碗や花入などのうつわを収集していきました。夫妻が愉しんだ茶道具からは夫妻の会話や暮らしぶりまでが伝わってくるようです。
本展では蓬春コレクションから季節の取り合わせとして、蓬春夫妻が催したお茶事をイメージして、掛物・釜・水指・茶入・茶碗・菓子器を陳列し、併せて季節の日本画や素描を展示いたします。本展を通じて蓬春夫妻が大切にしていた「和敬清寂」の境地を偲んでいただければ幸いです。
【主な展示予定作品】
・山口蓬春《扇面流し》 昭和5(1930)年
・銭選《瓜虫図》中国・南宋-元時代 12世紀-14世紀
・《三島茶碗》 朝鮮・李朝時代 16世紀
・《李朝白磁水指》 朝鮮・李朝時代 18世紀
・《老松茶器》 鏑木清方画、銘 松風 昭和時代
・《茶杓》 桃林宗陽作 江戸時代