本館が所蔵する紀州徳川家伝来楽器コレクションは、主として紀州藩の第十代藩主徳川治宝(1770~1852)によって収集されたものと伝えられます。意欲的な文化政策を推進したことで有名な治宝は、のちの伝えによれば、特別に勅許を得て黄金五万両を投じ、国内外、古今の楽器を集めたといいます。
コレクションは、雅楽の楽器を中心に、吹きもの(管楽器)・弾きもの(弦楽器)・打ちもの(打楽器)などの各種楽器や、楽譜、調律具を含めて総数159件、231点におよびます。点数や楽器種の多彩さ、その内容から、楽器史や音楽史上きわめて重要な、日本を代表する古楽器コレクションとみなされてきました。華やかに装飾された附属品、楽器にまつわる情報を記した附属文書に恵まれていることも、このコレクションの重要な特色のひとつです。
今回の小企画では、これらの中から約90点をとりあげ、雅楽器を中心とする多様な古楽器の世界を概観していただきます。現代の日本人にはかなり縁遠い存在となってしまった伝統音楽ですが、近年、学校教育の場でも和楽器が扱われるようになって、次第に関心は深まりつつあり、再評価の気運が高まっています。13年ぶりにまとまって展示される古楽器の数々をご覧になりながら、古の人々の心に響いた音色に思いを馳せて下さい。また、楽器や附属品の隅々にまで凝らされた高度な美術工芸技術をご堪能いただきたいと思います。