80年代末から、中国では数千万の人々が豊かな暮らしを求めて農村部から高度成長に沸く大都市に流れ込み始めた。経済開発区を擁する華南最大の都市・広州は、その最たる都市だった。だが、頼る人も、泊まるところもなく、終着駅・広州駅(広州火車站)の駅前で日々を暮らした人々も数多くいた。その数は5万人にも上り、ピーク時には10万人を超えたと言われている。 鵜養透は、広州駅前で人々の渦をさまよいながら、夜毎、シャッターを切り続けた。希望とあきらめが交差するざらついた空気のなかには、ただ生きる人間の姿がある。混沌、うつろになりゆく意識。レンズを通過した光は、悪夢のような美しさをフィルムに焼き付けた。 1998年に『第7回写真新世紀展』で奨励賞を受けたシリーズに未発表作品を加えた約60点で構成。東京と上海を拠点に活動する写真家・鵜養透、初めての個展となる。