イタリア人の両親を持ち、ギリシャに生まれたジョルジョ・デ・キリコ(1888~1978)はイタリアが生んだ20世紀最大の芸術家です。若き日のアテネとミュンヘンで過ごし、ドイツ象徴派のベックリンの幻想絵画や、ニーチェの哲学思想などの影響を強く受けました。1911年パリに出て翌年サロン・ドートンヌに初出品すると、「若い世代の最も驚くべき画家」と詩人アポリネールに賞賛され、形而上絵画と呼ばれるデ・キリコ独自の世界を確立しました。その脳裏に焼き付いて離れない限りなく深い孤独、底知れぬ憂鬱、神秘的で強烈な雰囲気は、パリの芸術界、とくに当時の若きシュールレアリストたちに大きな啓示を与えることになります。一方1920年ごろから古典絵画の偉大さに目を向けて、ルネッサンスの巨匠たちの作品の模写に励むなど、晩年に至るまでその成果を作品化することに腐心しました。
本展では、デ・キリコ夫人イザベラのコレクションを管理するジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団の全面協力のもと、同コレクションより選び抜かれた形而上絵画、古典的写実絵画の油彩を中心に、素描、彫刻を含めた約115点で構成するものです。キリコの約70年にわたる画業のうち、1920年代後半から70年代の作品までを広く展観します。この機会にデ・キリコ芸術の真髄をお楽しみください。