戦前戦後を通じ、約40年にわたって「古寺巡礼」シリーズを撮り続けた土門拳。そのライフワークの中から、今回は神護寺、高山寺、西芳寺、大徳寺、東寺、三十三間堂、嵯峨野石仏群、龍安寺、平等院、山城国分寺址、浄瑠璃寺など、京都の作品を展示いたします。不世出の写真家といわれる土門拳が、渾身のクローズアップでとらえた日本の仏像や寺院建築の数々。そこには静かな美しさと芯の強さを合わせ持つ、京都の奥深い魅力が凝縮されています。
B全サイズの欅額装としては今回初めて展示する東寺の作品(3点)を始め、「神護寺薬師如来立像」や、「平等院鳳凰堂夕焼け」など、土門作品の代表作も見どころです。何度も何度も寺々をめぐり、土門自ら胸に打たれたものだけにカメラを向けた作品を通して、古都の魅力を再発見できることでしょう。
『「好きな仏像は?」と問われれば、即座に「神護寺薬師如来立像(じんごじやくしにょらいりゅうぞう)」と答えるのが常である。眉が高く典型的な蒙古皺壁(しゅうへき)をもつ意志的な眼、張った頬、強く通った鼻梁(びりょう)、ぎゅっとむすばれて突き出した分厚い口唇(こうしん)、威圧的に見えて深遠なその表情がまずいい。両腿を強く隆起させた量感のある体躯(たいく)がまたいい。飛び立とうとして飛び立たず、叫ぼうとして叫ばず、静と動の矛盾する要素を一身にもって、高尾山中奥深き黒漆の厨子(ずし)の中に薬師如来は直立している。まさに今日残る弘仁仏中のナンバーワンとすべき傑作である。』
(土門拳 1978年「草月」2月号より一部抜粋)