踊り子、競馬場の馬、洗濯女など、19世紀の近代都市生活を描いた油彩画やパステル画で知られるフランスの画家エドガー・ドガ(1834~1917)による「メゾン・テリエ」(1934年制作)を展示いたします。「メゾン・テリエ」は19世紀フランスの自然主義の作家ギー・ド・モーパッサン(1850~1893)による小説で、フランス北部のノルマンディー地方の片田舎にある娼館と、それをめぐる人々のすがたを描いたものです。「メゾン・テリエ」は、もともとはモノタイプと呼ばれる一点刷りの版画ですが、銅版の一種であるフォトグラヴェールという技法で300部ほどがドガの没後に制作されました。この版画挿絵の付いた挿絵本をパリのアンブロワーズ・ヴォラール社が1934年に出版しています。ドガの絵画は非常に作為的な構図でありながら、そうとは感じさせない高度な構成力を用いて描いていますが、この「メゾン・テリエ」では、部屋の中でくつろいだり、客と戯れたりするあられもない姿の娼婦たちや、娼婦たちに囲まれご満悦の着衣のブルジョワ男性などの様子が大胆な筆致で表現されています。それはあたかも娼館の客か、娼婦の同僚となって部屋の中から見ているか、穴から覗き見たかのようです。この時代の社会状況を、ドガはフランスの風俗を通して切り取っているわけです。今回の展覧会では、この「メゾン・テリエ」の版画全19枚と共に挿絵本もご覧いただきます。