「或る一人の女の話」、「刺す」などの私小説をはじめ、磨きぬかれた語りの文体による聞書形式の「人形師天狗屋久吉」、「日露の戦聞書」、男女の情と業を描いた「おはん」、「風の音」などの作品で、野間文芸賞、女流文学賞、芸術院賞など数々の栄誉に輝き、文化功労者に顕彰されるなど近代日本を代表する女性作家・宇野千代。
平成8年に98歳の天寿をまっとうするまで小説、随筆の第一線で活躍し、没後もかかわることなく寄せられる高い評価には、単に文学者としての側面に当てられるのではなく、彼女の人生そのものへの憧れと共感があることをみのがすことはできません。さらに文学のみならず、彼女の美に対する卓抜な感性と強い信念は、ファッション雑誌「スタイル」誌の発行を経て着物デザインに結実し、多くの女性の支持を得ています。一方で、昭和13年創刊し、戦後復刊された文芸誌「文體」は、自身の代表作「おはん」の最初の掲載誌であり、さらに三好達治、小林秀雄、青山二郎ほか、時代を画す文学者、芸術家の活躍の場となりました。
本展は、世田谷にゆかりの深い作家、宇野千代の尽きせぬ魅力を、本人の文章と言葉から引き、文学と切り離すことのできない生涯、さらにその美とスタイルから解き明かします。