ゴヤ(1746-1828年)はスペイン、アラゴン地方の貧しい家に生まれました。絵画の才能に恵まれ、初期の画学習ののちイタリアにわたり、帰国後は、王立アカデミー会員(1780年)になり、宮廷画家(1789年)、首席宮廷画家(1799年)と画家としての位置を確かなものとしていきました。
代表作の「裸のマハ」・「着衣のマハ」、「カルロス4世家族」等々の作品は世界中の人々に知られ、晩年の作品では20世紀の絵画表現における先駆的な革新性が注目されるなど、ヨーロッパの絵画史を代表する巨匠(きょしょう)のひとりに数えられています。
ゴヤが生きたこの18世紀末から19世紀初頭のヨーロッパは大変革の時代でした。啓蒙思想の浸透、フランス革命、ナポレオン戦争などフランスを中心に歴史は大きく変転し、その嵐はスペインをも例外なく巻き込み、ゴヤの人生もこの大きな渦(うず)の中で展開しました。
連続銅版画「戦争の惨禍」は、宮廷画家として注文や命令で制作したのではなく、ゴヤがこうした時代を生きたひとりの人間として「自由制作」したものです。そこにはゴヤの生の叫びが強烈に展開され、変革の時代の真相が深く息づいています。