デジタルベースの情報環境が日常に浸透した現在において、「自然」というものをあらためて問い直し、芸術と科学のより多様な関係可能性へと開いていくことを試みるものです。
私たちにとって「自然」とは、情報技術を介在させた知覚によって、さまざまなスケールへと拡張したものとなっています。宇宙や深海など、人間が直接到達できない地域で採集されたデータは私たちに知覚可能な自然として再構成され、ナノレベルではゲノム解析をはじめ、人間自身が新たな自然として探査されています。またとりわけ複雑系科学においては、諸現象をコンピュータ内でシミュレートする方法によって、素材によらずパターンベースで世界をとらえる視点が提出されたといえるでしょう。
多くの芸術表現において、自然は外的な模倣・描写の対象でした。しかしコンピュータ内に生成される自然は、人間の知覚認識や既成概念ではとらえきれない組織化を実現することで、メディア・アートに新たなヴィジョンを与えています。アーティストは、現在の科学技術や思想、政治、経済の動向と共振し、社会、都市、宇宙、そして自らを含む世界全体を、さまざまな情報の流れが作用するプロセスとしてとらえはじめたのです。
本展覧会では、デジタル情報環境によって可能になった新たな知覚および社会の問題を敏感に感知し、人間と植物、気象と建築、インターネットとマラソンなど、多様な情報をかつてない視点で創造的に連結・変換していくアーティストやデザイナー、建築家の作品やプロジェクトを紹介します。
ミクロ/マクロ、可視/不可視、物質/非物質、アナログ/デジタルなど、これまで対立するとみなされてきた諸要素が、本展では新たな「自然」として提示されます。知覚可能な物や現象から、背後に横たわる膨大な情報のダイナミクスを想像していくことが、ここでは期待されています。