歌川広重(1797-1858)は、天保4年(1833)頃に開板した「東海道五拾三次之内」
(一般に保永堂版東海道)が人気を得て以降、約20種類の東海道シリーズを描いています。このたび展示する作品は、安政2年(1855)、広重が59歳の時に制作した「五十三次名所図会」(一般に竪絵東海道)です。
これまでの東海道シリーズとは異なり、本作品では大判という大きさの紙を竪に用いています。竪絵の名所絵は、広重が嘉永6年(1853)に「六十余州名所図会」を発表してから没年まで挑み続けましたテーマでした。竪絵の場合、縦長の画面空間をいかに埋めるかが構図選びのポイントとなりますが、本作品ではその解決のために俯瞰構図を多用したほか、中には最晩年の代表作「名所江戸百景」へと繋がるような「近像拡大図」(近景のモティーフを大きく描く手法)の萌芽も見られます。
晩年の広重の代表作のひとつであり、最後の東海道シリーズとなった竪絵東海道。このたびは55枚全てを展示するとともに、最初の東海道シリーズである保永堂版東海道を参考図として写真展示いたします。両図を比較しながら、広重の工夫と当時の東海道の風景をご堪能いただければ幸いです。