梅原龍三郎(1888-1986)は、若き日にルノワールに師事してその画才を認められ、帰国後も白樺派の人々を中心に、広く賞賛を受けました。以来、芳醇な色彩と奔放な筆致で見る者を魅了し、画壇をリードし続け、日本的な油彩画の完成者として一時代を築いたのです。
梅原の芸術は、しばしば西洋画の伝統と東洋的な美感を融合させたと評されましたが、彼自身が蒐集していた愛蔵の美術品にも、その創造の秘密がかいま見えます。師のルノワール、ピカソ、ルオーらの名品を身近に置いて愛する一方で、ヨーロッパ古代彫刻やコプト織にも関心を寄せ、さらにチュウゴクや日本の品々にも蒐集の目を向けて、深いかかわりを持ちました。コレクションした陶磁器や染織品などをしばしばモチーフとして描いたばかりでなく、模写やスケッチを通してそれらの造形のエッセンスを学んだのです。浮世絵の大津絵の平明な色彩と大胆な構図、浦上玉堂や富岡鉄斎の文人画の柔らかで強靭な筆致に魅了された梅原は、これらの名品を所蔵していましたが、そこにも彼自身が生み出したスタイルの源泉を見ることができるでしょう。
本展は、梅原の長い画歴を自画像の数々で振りかえる導入部とともに、晩年の自在な造形を重点的に紹介し、愛蔵した美術品の数々を展示することで、梅原芸術の創造の秘密を探ります。著名な巨匠の知らざる境地をお楽しみください。