清楚な女性像で知られる現代の代表的彫刻家、佐藤忠良は、すぐれた素描作家としても知られています。身近に見たもの、心に触れたものが、鉛筆、コンテ、墨、水彩、パステルなどで、つぎつぎき写され、スケッチブックの中にたくわえられていきます。スケッチは佐藤忠良にとって身体にしみこんだひとつの癖であり、生活の中の習慣となっています。
主題は、建物、風景、植物、樹々、人物、裸婦、動物など多彩にわたりますが、人物や子供の像にはもちろん、建物にも、風景にも、さらに老木においても、対象のさまざまな表情がとらえられ丁寧に表現されています。
今回の展示では、1939年から最新作まで、約60年間にわたる、150点の素描作品を展観します。
90年代に於いては、樹木のシリーズが登場します。これは彫刻家でもあった畏友、船越保武の言葉に啓発されて始められたものです。樹木の姿は、年月を重ねた結果の安定を保ち、なお溌剌と伸びあがろうとする姿勢を示していて、遍歴を重ねた作者の自画像のように見えてきます。