遠藤健郎(1914-)は、常に身近な風俗を題材として活写し、個性的な活躍を続けてきた千葉市在住の画家です。千葉市美術館では、戦争直後の人々の姿を描いた「瓦礫の街から」のシリーズ、そして「戦後は終わった」と名づけられた昭和30年代頃の日本の風俗を滑稽に描き出したシリーズなどを中心に所蔵していますが、その作品は時に辛辣で深刻であり、時に愛情に満ち、ユーモラスであり、戦後から現在までの日本社会の様子を、独自の視点からいきいきと伝えてくれます。
大正の自由な空気の中に生まれながら、戦争の渦中に青年・壮年時代の一時期をささげなければならなかったこの作家の体験が、作品の精神に反映されているのは明らかでしょう。少年時代に震災、大正から昭和への変動期を過ごし、大戦直前に東京美術学校油絵科の学生、戦中の美術書出版の仕事、美術教師、徴兵そして敗戦、千葉市役所での勤務といった経験を通して培われた鋭い観察力によって、様々な立場の人々を描き出していったのです。
残された多くのスケッチは、のちに作家自身の巧みな文章と共にいくつかの画文集にまとめられ、また版画や油絵に描きおこされています。自伝的な出版物もあり、その人生と作品への興味はつきません。絵と文章を通してその活躍を振り返り、同時に戦後から今という時代の姿に目を向けることは、今の私たちにとっても必要なことのように思います。千葉市美術館の所蔵作品を中心に、近作も含め主要作品200点ほどによって構成する大回顧展です。