湖北は日本最大の湖とともに、いくつもの霊峰に囲まれた地域。その山々には、いにしえより恵みと禍をもたらし、人びとはそこに神の存在を感じていました。
伊吹山は“荒ぶる神”として記紀神話に登場し、山中には多くの山岳寺院が成立しました。己高山は奈良時代より山林修行の場として発展し、日本有数の仏教美術品を生み出しました。湖北は、山岳信仰を背景に、一大宗教文化圏として発展したのです。
この地域の美術工芸品の数々は、今日の都に近いがゆえの雅さと、土地に根ざした信仰から来る地域性をあわせもったものです。そこからは、古代より山を畏れ、崇め、そして憧れた湖北人の信仰心の深さをうかがい知ることができます。その思いは現代においても、里の自社や祭りをかたくなまでに自分たちで護り続ける姿にも表れているのです。
今回の展覧会では、湖北の山岳寺院ゆかりの文化財の伝承の数々を紹介することによって、それらを育んだひたむきで厚い信仰心と、現代までに続く郷土愛を見つめ直し、湖北人のこころの源流に迫ります。