1915年、彫刻家を志す一人の青年が東京美術学校の門を叩いた。彼の名は黄土水(こうどすい)(1895-1930)。台湾出身者初の東京美術学校留学生である。木彫の大家・高村光雲に師事しつつ自主的に大理石彫刻を学ぶなど、東アジアにおける近代美術の中心地であった東京で貪欲に研鑚を積んだ彼は1920年に美術学校を卒業すると同年の帝展に台湾出身者として初の入選を果たす。その後も展覧会や博覧会に入選を重ね多くの注文制作も手掛けるなど彫刻家としての将来が嘱望されていたが、1930年病のため東京にて急逝した。
20世紀末から現在にかけて台湾では台湾美術史の研究がたいへん盛んになっている。黄土水もまたその作品《甘露水》(1919)が国宝に指定されるなど重要作家としての評価を確立しており、2023年には国立台湾美術館にて大回顧展が開催されてさらにその評価を高めた。
本展では、国立台湾美術館からこの《甘露水》を含む黄土水の作品・資料を迎えて展示するとともに、藝大コレクションより大正から昭和初期を中心とした洋画や彫刻の作品をあわせて紹介する。黄土水作品と彼が学んだ日本の近代美術作品を横断的に鑑賞することで、この時代の美術界がどのような相貌をみせていたのか、そして黄土水がそれらをどのように自作に昇華させたのか、ぜひ会場で確かめていただきたい。
高村光雲や平櫛田中の彫刻のように近世以前の伝統的な感性と近代美術との出会いが生みおとした作品、あるいは荻原守衛や北村西望の彫刻に代表される人の情念を感じさせる静かな熱気をたたえた作品、藤島武二、小絲源太郎らが手掛けた近代都市をモチーフとした絵画、黄土水作品にもみられる動物や裸体人物をモチーフとした作品、陳澄波や台湾人美術学校卒業生の絵画作品など、バラエティに富んだ作品群を用意してお待ちしております。