幼い頃、瀬戸内海の島で過ごした井川惺亮氏。その記憶に留められている、石灰岩の島、大山祇神社の国宝の鎧や刀などに付いている装飾品、薄暗がりの中に竹林や紅葉や赤松が射影された障子など、島での光景は、明るい温かみのある井川氏の作品の色彩を想起させます。
井川氏はフランス留学以降、絵画の画布や木枠の属性を解体して現実空間へと開放し、赤・青・黄の3原色を中心とした9つの既成の色で、窓ガラスを拭くときのようなタッチでシステマティックに着彩する手法により、一貫して「Peinture絵画」と題し制作してきました。そして、作品を配置する場所性、作家と作品と鑑賞者の関係性の問題を意識し、絵画をより身近なものとするため、日常の中から表現できる絵画の素材を求め、絵画の可能性の拡張に挑み続けます。
本公開制作では井川氏の制作のテーマでもある絵画の広がりと空間の演出、そして自然が持つ風物(色など)との調和を作品展示、ワークショップにより体感していただきたいと思います。その作品展示では、愛媛県美術館を取り巻く風景や建物との調和を試み、井川氏特有の手法により着彩された和紙の作品で、新たな生きた作品空間を生成します。また、ワークショップでは、愛媛県産の手漉き和紙を素材に、折り紙制作から展示にいたるまでの過程を追体験することで、作家の制作姿勢に触れ、アート(美術)のあり方を作家とともに再考する機会となります。あなたもアーティストになれる今回の公開制作に、多数のご参加をお待ちしています。