1994(平成6)年11月3日に開館した木田金次郎美術館は、今年開館30周年を迎えます。故郷岩内で描き続けた画家・木田金次郎(1893-1962)の画業を顕彰する場として、遺族や多くの町民の声を受け開館した当館は、全国各地の所蔵者から作品の寄贈や寄託を受けて、約90点(油彩)の収蔵作品から出発しました。以来、新たに作品所蔵者からの寄贈・寄託が相次ぎ、現在179点(油彩)と、開館時からほぼ倍増する充実をみせています。この中には木田自身が多くの作品を焼失した1954(昭和29)年の「岩内大火」以前の作品が多くを占めており、ようやく画業の全体像が連続して把握できるようになりました。
木田金次郎作品は様々な「物語」を秘めています。小説『生れ出づる悩み』の主人公のモデルとして描いた有島武郎との関連をはじめ、岩内や北海道内での制作背景をはじめ、作品所蔵者が木田や岩内に関わりがある方が多いことから、作品ごとといっても過言ではないほどに、エピソードやストーリーに彩られています。
今年は「岩内大火」から70年の節目でもあります。そこで今回の特別展示は、会期を「前編・岩内大火以前」、「後編・岩内大火以後」に分けて、過去最大規模の作品点数で木田の画業を様々な物語を交えて紹介いたします。
「前編」(1910-1954)では、有島武郎との出会いを経て、故郷で画業をスタートさせた木田の着実な歩みを、初めて大火以前の作品のみで構成します。
「後編」(1954-1962)では、大火からの「再起」を果たす不屈の「岩内魂」と、新たな展開を見せる画業を存分に紹介します。
木田金次郎美術館開館30周年、岩内大火70年という節目に、様々なエピソードを紡ぎ、いくつかの「物語(ストーリーズ)」として、木田金次郎の画業を振り返る機会となれば幸いです。