齊藤鷗舟(1890~1987)は、東京に生まれ、歴史画の大家である松本楓湖に師事し、同門である鴨下晁湖、速水御舟、小茂田青樹らと同時期に巽画会で研鑽を積んだ日本画家です。画業前半期の作品や資料は関東大震災、太平洋戦争の戦禍に大かた失われ、現存する作品のほとんどは1957(昭和32)年に小山市に転居後30年の間の制作と考えられます。
小山での鷗舟は、作品制作や作品展への出品のかたわら、市内の小学校への作品寄贈、『小山の伝説』(小山市教育委員会、第一集1963年、第二集1966年発行)の挿絵などで広く親しまれました。また、小山の郷土文化研究にも尽力し、1963(昭和38)年には小山市文化功労者として表彰されるなど地元小山に多くの功績を残しました。
鷗舟の画風は中央画壇で磨かれた確かな画技に裏付けられており、人物や動物、植物、風景など多彩な主題には画家としての綿密かつ穏やかなまなざしが表現されています。中でも歴史人物画は細部まで丁寧に描写され、師松本楓湖に学んだ安定した構図と物語性が感じられます。
当館では2016年に「齊藤鷗舟展―小山で描いた30年」を開催し、市内の小中学校をはじめ小山に遺された優品を紹介し大変好評をいただきました。本展覧会では、これらなじみのある多彩な作品に加え、松本楓湖《蒙古襲来図》とともに歴史人物画に焦点を当てながら、小山ゆかりの日本画家、齊藤鷗舟の新たな魅力をご覧いただきます。