マン・レイ(1890-1976年)は、ロシア系移民の子としてアメリカに生まれました。画家を志した彼は、1915年頃から20年代初頭にかけて展開された前衛的な芸術運動ニューヨーク・ダダに出会い、フランスから渡米中のデュシャンやピカビアらに大きな影響を受けます。
1921年、あこがれのパリに渡ったマン・レイは、シュルレアリスム運動に加わりました。「レイヨグラフ」「ソラリゼーション」といった技法によって、写真の新しい表現を切りひらく一方で、既製品などを利用した立体作品=オブジェ制作でも、独特のユーモラスな作品で注目を集めます。また、交友関係も広く、文学者、思想化、画家、音楽家など、多くの人々の肖像写真も残しました。マン・レイは、革新的な芸術運動が次々と繰り広げられた20世紀前半の時代の目撃者でもあったのです。
マン・レイ(Man Ray)という名は、本名のエマニュエル・ラドニツキー(Emmanuel Randnitsky)を省略した形ですが、英語でManは「人間」、Rayは「光線」の意味も持ちます。いわば「人間/光線」といったところです。「マン・レイ」と名乗ることで、彼はラドニツキーという個人的な自分から自由になろうとしました。そしてマン・レイとしての活動も、「人間/光線」(マン・レイ)という出来事として客観的にとらえたのです。いったいマン・レイはどこにいるのでしょうか。
正体不明のマン・レイ。あなたは画家?写真家?オブジェ作家? それとも……。「あなたは何者なのですか」という問いかけに彼は答えます。「私は謎だ。」
この展覧会は、写真、絵画、オブジェ、映像作品、版画など約300点の作品を通じて、マン・レイの全生涯に渡る活動を年代順にたどりながら、テーマで整理し、多角的にご紹介する本格的な回顧展です。マン・レイの「謎」を存分にお楽しみ下さい。
※次のようなテーマを用意しています。
セルフポートレート/自由な手/アトリエと住居/デュシャンとダダ運動/写真・アエログラフ・オブジェ/ダダ・シュルレアリスム/レイヨグラフと映画/キキ・ド・モンパルナス/肖像写真・モード写真/リー・ミラーとソラリゼーション/メレット ニッシュ/オブジェと書物/サド侯爵/アディ 上天気/ジュリエット/宮脇愛子/オブジェ 言葉あそび/晩年(イジドール・デュカスの謎)