飛び散った絵具やカンヴァスに青くなすりつけられた人のかたち、紙の上に残された自動車の車輪の跡。第二次世界大戦後、様々の斬新な表現が美術作品として登場します。今日、画期的な表現として高く評価されるこれらのイメージは、肖像画や風景画のようになにものかに似るのではなく、なにごとかの結果として意味を与えられているといえるでしょう。この展覧会ではこのようなイメージに「痕跡」という名を与え、戦後美術を新しい角度から見直してみたいと考えます。
1950年代から70年代後半まで、およそ30年にわたる美術の流れの中に「痕跡としての美術」は多様に姿を変えて登場します。そして日本のみならず、アメリカやヨーロッパの戦後美術においてもこのような美術の系譜は脈々と続いています。ダダやボディ・アート、コンセプチュアル・アート、そしてヨーロッパにおけるウィーン・アクショニズム。国籍も時代も表現も全く異なったこれらの動向を「痕跡」という視点から捉える時、現代美術の思いがけない同時性や共通性、表現の多様性と独自性が明らかになるように思います。
ジャクソン・ポロックやアンディ・ウォーホルといったよく知られた作家から、ヘルマン・ニッチやアナ・メンディエッタといった日本ではほとんど紹介されたことのない作家まで日本、アメリカ、ヨーロッパのおよそ60人の作家、120点の作品で構成された本展覧会は美術という営みを新しい角度から問い直す、得がたい機会となることでしょう。
【講演会】※先着150名様 聴講無料 申込み不要
1月30日(日)14:00‐15:30
「痕跡が美術になるとき」
尾崎信一郎(京都国立近代美術館主任研究官、本展企画者)
場所:地下1階講堂