甲冑の美学
古今東西の鎧のなかでも、日本の甲冑は美しさ華やかさを重視して作られた特異な鎧です。平安時代に登場する大鎧は、戦闘に用いる武具であるにもかかわらず、王朝装束の「かさねの色目」の影響を受け、色彩豊かな威糸で装飾されました。また戦国期の甲冑は、徒歩戦のために機能性を追求して構造がシンプルになる一方、戦場で目立ち、あるいは武運を祈るため、個性的で奇抜なデザインが取り込まれることもありました。これら装飾性豊かな日本の甲冑美を紹介するとともに、江戸時代以降、盛んに行われた中世武具の考証、復古にも焦点を当てます。
馬とともに
馬は古代より人の生活と文化に深く関わり、中世からの武家社会ではとくに軍馬として重用されました。軍事権を「兵馬の権」・武芸一般を「弓馬の道」と言うように、馬を扱うことは武士の必須の嗜みであり、優れた馬は、武威・武芸の象徴として武士の身分格式を示す存在となりました。こうして武家風俗と密接に結びついた馬は、その気高い姿が武士たちに愛好され、多様な美術工芸品のモチーフにも表されます。また、人馬を繋ぐ馬具は時代や用途によって変化し、近世には華やかな装飾性が取り入れられて発展しました。本展では、馬と人がともに生きた歴史について、武家社会と馬の関わりを中心に紐解いていきます。