当館では昭和60年10月に開館以来,一貫して武者小路実篤に関する作品と資料の収集に努めております。
今回の展示では,平成15~16年度に新たに収集した作品・資料をご紹介します。
〈主な収集内容〉
◎武者小路実篤自筆原稿「かちかち山」「花咲爺」
大正6年『白樺』に発表した童話劇。信州の教師・赤羽王郎から「子供向けの作品を書いて欲しい」という依頼を受けて誰でも知っている昔話を題材に書いた作品。
話の筋は昔話と同じでありながら,命を大切にし一人一人の個性を尊重した実篤の考え方が鮮明に現れ異色の作品となっています。
この原稿の取得を記念して,当館では平成17年3月27日に開催する「朗読会実篤を聴く」で「かちかち山」の朗読を上演します。
◎昭和初期に日向新しき村で発電に使われた水力タービン
武者小路実篤は,誰もが平等に人間らしく生きられる社会の実現を求めて大正7年11月に「新しき村」を宮崎県の山の中に創設しました。実篤は単に自給自足や自然とともに生きるというだけでなく,有用な技術は積極的に導入し,その一つとして電灯を点し脱穀や精米などに機械を導入するために発電を計画し,昭和5~6年には実現しました。この発電に使われたタービン(大正15年,日立製作所製)が「新しき村」近隣の集落に保存されており,このたび当館へお預かりすることになりました。
◎『白樺』同人・『心』同人関係作品・資料
平成13年度末に東京都近代文学博物館が閉館したのち資料の最終整理が行われ,新たに武者小路実篤と特に親交のあった文学者の作品・資料が当館へ寄贈されました。明治43年に実篤らが創刊した『白樺』の同人では作家の有島武郎や倉田百三,歌人の木下利玄,詩人で彫刻家の高村光太郎など,また戦後に実篤が呼びかけて創刊した『心』の同人では作家の谷崎潤一郎や竹山道雄,歌人の窪田空穂,法学者で文部大臣も務めた田中耕太郎や高橋誠一などの原稿や書を紹介します。
◎その他
・岸田劉生装幀版画~大正時代の日本洋画を代表する画家・岸田劉生による白樺同人の著作の装幀版画
・河野通勢「風景」(油彩)~岸田の起こした草土社に参加し,細密で独特な作品世界を築いた河野通勢(こうの・みちせい)の初期の大作
・播本脩三「椿」(油彩)
実篤が昭和初期に起こし2回で中断した公募展「大調和展」を,昭和37年に復活・・・