東海地方に縁が深い篠田桃紅 (1913-2021)は、107歳の生涯を、墨による芸術創作にかけ、人生を切り開くように常に新しい表現を目指した美術家です。墨と筆を用いた水墨による抽象芸術は、世界的に高く評価されています。その活躍は、書を基盤とした「書家」としての創作から、「画家」としての抽象画、「版画家」としてのリトグラフ作品、「現代アーティスト」として建築空間という大画面と向き合った壁画など多岐に渡ります。更に、創作や日々の人生観を記した「随筆家」としての側面も持ち、桃工自身のスタイルを貫く生き方は、多くの人々を魅了し続けています。
本展では、篠田桃紅の創作活動を長年見守ってきたザ・トールマンコレクションより、公開する機会の少ない貴重な肉筆作品と、約50年に渡り取り組んだ版画作品を古川美術館と分館爲三郎記念館の両館で展覧します。
古川美術館では、前衛書家として注目を浴びていた中、独自のスタイルを模索して1956年43歳で単身渡米した時期から、晩年までの篠田桃紅の軌跡を紹介します。2年間滞在したアメリカでは、時代の先端であった抽象表現主義の巨匠たちとも親交を深め、帰国後は桃紅自身の墨による抽象表現、空間表現を次々に展開させていきました。古川美術館では、肉筆ならではの墨線の勢いや発色の広がり、和紙のにじみ、ぼかしといった偶然性をいかした大作をお届けします。
また、昭和初期創建の数寄屋建築である分館為三郎記念館では、表現技法の一つとして情熱を傾け、生涯に千点以上制作したという桃紅のリトグラフ作品を展覧します。リトグラフの制作では、摺り上がった版画の多くに一つ一つ手彩色を施し、装飾やリズム感など表情の異なる作品へと仕上げています。自然光の移ろいの中、間近で篠田桃紅作品と向き合える、一期一会の機会をお楽しみください。