抽象画家・白髪一雄(1924-2008)は、床に広げたキャンバスの上に絵具の塊を置き、天井から吊るしたロープにつかまってそれを素足で画面全体に展開させる方法で描きました。全身の力を込めて描かれた迫力のある作品は観る人に強烈な印象を与え、世界的に高く評価されています。
白髪が素足で描くアクション・ペインティングを開始した1950年代後半、当時所属していた前衛美術グループ「具体」では、「これまでになかったものを創り出す」ことを目指し、若い会員たちが自由な発想で新しい表現を次々に生み出していました。なかでも特異な白髪の作品は、来日したフランスの美術評論家ミシェル・タピエに賞賛され、彼を通じて海外にも広く知られるようになります。
白髪は生まれ育った尼崎に強い愛着を持ち、83歳で亡くなるまで当地に暮らし、制作しました。生誕100年を迎える今年、生誕の地・尼崎においてその足跡をたどります。
本展では作品だけでなく作品が生み出された背景にも光を当て、エネルギーに満ちたアクション・ペインティングの原点ともいえる尼崎の祭りの記憶をめぐる資料や、生家「木市呉服店」にあったアトリエの再現、白髪が愛好した品々、さらには、創作のために心身を鍛えようと修行を行った天台密教に関連する資料なども加え、生涯にわたり飽くなき挑戦を続けたアクション・ペインターの画業を紹介します。
また、様々な関連事業を通して、現代のアーティストたちにも影響を与えつづけるその作品の魅力を多面的に検証します。