大正から昭和にかけて、空高く飛ぶ鳥や飛行機から見下ろした視点による鳥瞰図のスタイルで数多くの名所案内を描いた吉田初三郎。初三郎による鳥瞰図は、実際の地形を正確に表現するものではなく、変幻自在の工夫が施された画面となっています。例えば見えないはずのランドマークが描かれていたり、中心となる建物が極端に大きく描かれていたりするのです。かと思えば、線路には当時走っていた車両が描かれ、桜の名所には桜の木が、温泉には湯煙が立ち上る様が丁寧に描き込まれています。大胆なクローズアップやデフォルメが施された構図と、細部まで手を抜かない描写は目を楽しませつつも非常にわかりやすく、絵の中を旅するかのような気分を味わうことができます。
初三郎が描いたのは、現実の景観を重ね合わせた上で生み出される、現実には存在しない風景でした。それは見る側が見たいと望み、作る側が見せたいと願う、理想化された風景、Beautiful Japanの姿だったのです。本展では10点以上の大型肉筆鳥瞰図をはじめ、ポスターや絵葉書、さらには絵画作品などを通じて吉田初三郎の世界の魅力に迫ります。