日本の金属工芸(金工)は、古来、主に宗教的な祭祀具や武具として発達してきましたが、開国により西洋から「美術」という概念がもたらされたことによって、はじめて「美術品」として位置づけられました。明治時代末から大正時代には、金工家たちの間にも、新しい時代に即した「美術品」を創作しようとする気運が高まります。しかし、一般には金工をはじめとする工芸は、美術の一分野とはみなされていませんでした。このことは、明治40年に開設された官設の美術展覧会に、工芸部門が設置されなかったことに端的に表れています。そこで、工芸家たちは、日本の古典的作例をはじめとするアジア諸地域の古美術を研究したり、西洋の芸術思潮を取り入れることにより、工芸のあり方を模索しました。その結果、昭和のはじめには、一般にも工芸は「美術品」としての認知を得ることになります。
本展では、そのような価値観の転換期に作家たちが試みた表現や、作品から読みとれる意識の変化を、金工に焦点を当てて紹介するものです。戦前の日本において工芸の本質にかかわる論議を巻き起こした、代表的作例を集めました。強い問題意識に支えられた作品は、現在の私達にも「工芸とは何か」という問いを投げかけてきます。